江戸前鮨 『穴子の魚竹寿し』千葉由美さん

更新日:4月19日

(「ふじのくに料理屋キッチン」より https://www.fujinokuni-kitchen.com/story)


全てのすしだねに「仕事」を施す”江戸前すし”にこだわる、すし職人 千葉由美さん。圧倒的に男性の多いすしの世界で光を放つ女性すし職人だが、逆に女性ということにこだわらず、「手先の器用さ、美しいすしを握れるかどうかに男女は関係ないので」と穏やかに話す。すしに魅せられ、進む道に迷いのない千葉さんだが、最初はすし職人になるつもりはなかったという。優しい笑顔の中に、職人の清潔感と凛々しさを持つ千葉さん。すしの魅力と、それを支える静岡県産の食材について、多岐にわたり、話してくれた。


穴子の魚竹寿し

住所:静岡県静岡市清水区草薙122

電話:054-345-8268

http://www.uotakesushi.com/


すしに魅せられ、女性すし職人が誕生

白衣に身を包み、板場に立つ千葉さんは、どこから見てもひとかどのすし職人。しかし、「父と叔父が営むこのお店を継ぐ気は、当初、全くありませんでした」と、驚きの発言が飛び出した。後を継ぐことが幼い頃からの既定路線のようになっていたことにも反発し、都内の大学に進学、就職もそのまま都内へ。その後、結婚がきっかけとなって地元に戻り、ホール係のアルバイトとして「魚竹寿し」に入社したが、この時点でも板場に立つ気はなかった。接客する時に商品知識がもっとあればお客様と話が弾むと思い、叔父から魚のおろし方などの仕込みを、父からすしの歴史を教わり始める。転機はそこで訪れた。「すしはただ、魚とシャリを握ればいいわけじゃない」。29歳でそう気づいた時は、すっかりすしの世界の奥深さに魅せられ、すし職人の道に進むことを決意していたという。



奥深いすしの魅力とは

千葉さんから、江戸前と関西では、すしを示す漢字も違うとうかがった。関西ではすしは”鮓”と書く。関西のすしは発酵ずしが元々で、今もなれずしに名残がある。すしの歴史や成り立ちを知ることが好きで文献にもよく目を通し、その上で、板場ですしを握ることに精を出す。毎日、一つ一つのすしだねに、丁寧に仕事をする。例えばこはだにはネギと、鯛で作ったおぼろを噛ませ、酸っぱさの加減をする。タコの桜煮には包丁で歯打ちを入れ、赤身は漬けにし、海老は甘酢に漬け込む。厚焼き玉子には消えそうな火加減でゆっくりゆっくり火を通す。片面を焼くのに45分、もう片面に30分。鞍がけにしてでき上がる。全てはシャリとすしだねがなじみ、お客様が口に運んだときに幸せを感じてもらうため。


「江戸前すしは、一皿の中にお刺身、煮物、酢のもの、焼きものなど、和食の全てが入っているんです」。握れば握るほど、すしの世界の深淵をのぞく気になる。昨日より今日、今日より明日、さらにおいしくなるように、工夫も努力も怠らない。


静岡県産の食材を江戸前の技術で握る


本来、江戸前すしは江戸の前(東京湾)で獲れた魚介を握ったすしを指していた。その後、冷蔵技術がなかった時代に酢で〆たり、煮汁で煮たり、塩をしたり、タレに漬け込んだりと、さまざまな加工を加える技術のことも、「江戸前」の定義になっていった。「穴子の魚竹寿し」のすしは、前述の通り、一貫ごとにちがう仕事が加えられた江戸前すし。駿河湾の豊かな恵みと、全国の旬の美味を取りそろえて、今日もお客様を待つ。


「静岡で水揚げされた魚と全国の旬のものを取り混ぜて、その日一番おいしいすしだねをお出しします。ほぼ半分以上が静岡産の魚介になりますね」。この日は、サヨリやカマス、ヒラメ、マグロ(赤身と中トロ)などが県内で水揚げされたもの。県外のお客様からのリクエストで、静岡産のものを中心に握ることもある。


「それに、お茶とわさびという、すしに欠かせない名脇役も、もちろん静岡産のものです」。特に千葉さんが魅力を感じているのは静岡市の北部に位置する有東木のわさび。「標高が高いところで育つせいか、味が濃厚。風味が持続して、すしとの相性が抜群にいいわさびなんです」。


ある日、千葉さんが絶賛する有東木の丸一農園へ、連れ立ってうかがった。



千葉由美


女性のすし職人であり、静岡市清水区草薙「穴子の魚竹寿し」の2代目社長。結婚のため静岡に戻り、父と叔父の営む「穴子の魚竹寿し」にアルバイトとして入社。


自身の技術を向上させるため、すし組合の勉強会や全国大会に出場するなど、日頃から地道に励んでいる。私生活では大学生から中学生まで1男2女の母。数年前に大病をしたことで健康に過ごせることに感謝し、すし職人の道に更に積極的に邁進している。