(「ふじのくに料理屋キッチン」より https://www.fujinokuni-kitchen.com/story)
日本料理人としての技術はもちろん、静岡県産の食材の魅力を存分に生かした料理の数々で「駿河の名工」と呼ばれている勝呂文洋さんは、日本料理界だけでなく、イタリアンやフレンチのシェフ達からも尊敬されるほどの料理人。
料理人になるきっかけは両親が営むお弁当屋でした
静岡県三島市出身の勝呂さんは、両親がお弁当屋を営んでいたため、小さい頃から手伝いをしているうちに、食に対する興味が沸き、いつしか将来は料理人になることを目標にしてきたという。そして、高校卒業後は大阪の調理師専門学校に進学し、京都の会席料理屋に就職した。
「中学の修学旅行で行った京都が印象深く、憧れがありました。京都の調理師専門学校に行けば、そのまま京都で料理人になれるのではないかと思い、老舗の料亭にお世話になったんです。もちろん、最初は安月給ですし仕事は大変でしたが、自分の経験を積ませていただいているという気持ちで毎日が楽しかったですね。」
その後、京都や大阪の有名店やホテルで20代を過ごし、30代になった頃、静岡駅南口の旧センチュリーホテルが開業。京都時代の師匠の友人が料理長を務めることとなったため、その二番手としてゆくゆくは料理長にと開業当初から携わり、料理長、総料理長と勤め上げ、現在はなすびグループの統括料理長としてその腕を奮っている。
本当の「おもてなし」は料理だけが全てではないことを学びました。
料理人として34年を過ごしてきた勝呂さん。これまで師匠に恵まれ、仲間に恵まれ、部下にも恵まれ、これからは次の若い世代を育てていきたいと語る。
「最初に勤めた料理屋の女将さんの姿を見て学ばせていただいた<おもてなし>の心は、今も大切にしているんです」と勝呂さん。 料理人として誠心誠意、心を込めて料理を作り、お客様に喜んでいただくのはもちろんのことだが、料理だけが全てではない。お客様をお迎えする前に、玄関に打ち水をし、廊下に季節のお花を生け、料理を提供し、お帰りの際には路地の角を曲がるお客様の姿が見えなくなるまでお見送りする。これが本当の「おもてなし」なのだと。真のおもてなしは、お客様が玄関を入り、最後に姿が見えなくなるお帰りの時までの時間、空間、そして料理を楽しんでいただくための全ての設えに心を尽くすことなのだという。
食の宝庫、静岡。その魅力をさらに生かし、お客様に喜んでいただくために「味はこころ、日々加減」を心掛けています。
「日本一高い富士山、日本一深い駿河湾を有し、魚介や肉、野菜などの食材に恵まれた静岡は、他県の料理人たちも羨ましがるほどの食の宝庫です。きれいな水、穏やかな気候に恵まれていることは幸せですね。」 勝呂さんが大切にしている言葉がある。
「味はこころ。日々加減。」
毎日料理に向き合い、お客様にいかに喜んでいただけるかを考えるなかで、その日の気候やお客様の好み、仕入れた食材によって味を調節し、ベストな状態でご提供すること。その微妙な「加減」を実現するためには、自分自身も常に健康でいなければならないという。
料理人歴34年という勝呂さんが積み重ねてきたこだわりと本気さ、そして優しさに、さすが「駿河の名工」と呼ばれる圧倒的なプロの心意気を感じた。
静岡の旬の食材を取り入れた勝呂統括料理長
至極の料理教室
「駿河の名工」から直接料理を教えてもらえる料理教室を開催。 静岡県産の食材の魅力を余すところなく引き出すプロの技を間近で体感できる料理教室は、参加者も大満足の体験となり、素敵な時間を共有する場となった。 静岡の気候、静岡の水、静岡の土で育まれた由比産の真鯛、美黄卵、ふじのくにいきいき鶏、麻機レンコンなどの食材が色鮮やかな会席弁当となり、静岡の食材を知り尽くした料理人だからこその技に魅了された。
駿河湾の恵み「真鯛」を昆布〆に
1年を通して水揚げされる真鯛は、春と秋に旬を迎える。駿河湾の真鯛は、3月~4月にかけてはお腹の赤い桜鯛、産卵前の11月頃の鯛はもみじ鯛とも呼ばれ、由比や焼津、沼津港近海で獲れる、まさに駿河湾の恵みだ。 皮と身の間にある脂身はさっぱりとしながらも旨味を存分に含み、水分のある魚のため、大型の真鯛の場合は熟成させた方が美味しいと語る勝呂さん。今回は由比港で揚がったばかりの新鮮な真鯛を、うす塩をあてて1~3時間ほど置き、昆布で締めて旨味を引き出す。
真鯛の昆布〆をちらす寿司飯の酢は、静岡のお酢の蔵「マルヤス近藤酢」の「延命酢」を使用。温州ミカンを素材にまろやかな味わいが特徴で、飲むこともでき、料理にもぴったりなのだと、静岡産へのこだわりを魅せてくれた。
安心、安全、新鮮な清水養鶏場「美黄卵」の卵焼き
国産の魚粉、カキガラなど自家配合のえさと、弱アルカリミネラル水などにこだわり、ストレスなく育てられた鶏が産む「美黄卵」。鶏は生み始めて1年で入れ替えるという。 栄養素を強化した栄養強化卵ではなく、飼料、水、環境を整えて健康な鶏が産む卵は、静岡市葵区足久保だけで作られている紛れもない静岡産の卵。地産地消だからこその新鮮さが味わえるのは嬉しい。 白身も黄身もプリっと盛り上がった新鮮な卵は、卵本来の美味しさを生かしたシンプルな卵焼きに。 「美黄卵の美味しさを味わっていただきたいので、シンプルな卵焼きにしましょう。後で形を整えれば大丈夫ですから」と、優しく声をかけながら、参加者に料理の楽しみ方を教えてくれる勝呂さんのやさしさも垣間見れた。
相性の良い「ふじのくにいきいきどり」と「麻機レンコン」は照り焼きに
6種類のハーブをえさに臭みがなく味わい深い「ふじのくにいきいきどり」と、徳川家康公も好んで食したと言われ、節目が細く、もっちり、シャキシャキした食感を楽しむことができる「麻機レンコン」を照り焼きに。 付け合わせにホウレンソウの胡麻和えをデモンストレーションで調理しながら、「野菜もホウレンソウの他に静岡県産のしいたけやプチベールなどの野菜でも美味しく仕上がり、保存もききますし、バリエーションもお楽しみいただけますよ」と勝呂さん。春には、うるい、こごみなどの山菜、菜の花やセリなど季節の食材を取り入れると、さらに楽しみも広がると教えてくれた。
勝呂文洋
京都「萬亀楼」や大阪「和光菴」、ホテルセントノーム京都などで修業を積み、1997年ホテルセンチュリー静岡開業時から和食調理シェフを務める。1999年和食調理副料理長を経て、2003年和食調理料理長に就任。2009年調理部長兼和食調理料理長、2012年取締役総料理長に就任。2017年、全国から選抜された熟練技能者が技の日本一を競い合う「第29回全国技能グランプリ」の日本料理の部門で銅賞を受賞。また、極めて優れた技能を有し、業界および技能士会の発展および後継者の指導・育成に、多大な尽力をした技能士に贈られる「静岡県優秀技能士」受賞。「The 仕事人of the year」を5回受賞し、令和2年度ふじのくにマエストロシェフとして静岡県の食文化の振興に貢献している。
◆なすびグループ
静岡市を中心に、懐石料理、炭焼き料理、ビュッフェレストランなど17店舗を展開する「NASUBI GROUP」。
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