(「ふじのくに料理屋キッチン」より https://www.fujinokuni-kitchen.com/story)
標高300〜1000mの地で作る有東木のわさび
静岡市の街中から、安倍川に沿って30キロほど北上、その後、支流の有東木沢に沿って3キロほど行くと、北と東西を山に囲まれた扇型の地形に出会う。そこが標高500〜600mの有東木集落だ。豊富な湧き水と澄んだ空気、肥沃な土壌を誇るわさび発祥の地である。
有東木地区のわさび栽培について、「湧き水が暖房にも冷房にもなる」と話す丸一農園の望月佑真さん。の望月佑真さん。わさび農場は標高300〜1,000mの中に点在しており、わさびの生育地としては寒冷な方。冬は凍害に悩まされるが、その分、夏は涼しく、一年を通してわさびの栽培が可能な地でもある。
この地の気候がもたらす、わさびの味わい
「すしとわさびは、切っても切れない文化として、お互い一緒に伸びてきた感があります」と話す望月さん。すし職人の千葉さんも大きく頷く。標高の高さにより、温暖な地域よりも有東木のわさびの成長はやや遅い。つまり、同じ年月を重ねたわさびでも他地域よりサイズが小さめ。だが、その分、味が濃い。密なわさびで「粘り気があって、水っぽくないんです」と千葉さんも太鼓判を押す。人差し指で、すしだねにちょんっと付けられる。
和食文化の象徴として、世界中から注目を集めるわさび。栽培自体も、澄んだ水で育てて肥料や農薬もほぼ使わないため、環境負荷が少ない持続的な農法として知られている。
日本古来の野菜「わさび」を、有東木の集落全体で推す
15年ほど前から、望月さんの父の世代が積極的に働きかけ、有東木のわさびの美味を世間に知らしめた。「父たちは、”せっかくだから、有東木全体で頑張ろう”と、有東木という集落の知名度も上げました」。和食店に卸し始めたのもこの頃だという。望月さんは丸一農園の11代目だが、「有東木ではまだまだ新しい方」と笑う。「集落全体では、わさびを作り続けて400年くらい経ちますから」。慶長年間(1596〜1615年)にわさび栽培がこの地で始まったことから、有東木は、わさび発祥の地とされている。1607年、駿府城で晩年を過ごしていた徳川家康が有東木のわさびを気に入り、門外不出とした言い伝えも。「数少ない、日本原産の野菜です」。集落のみんなで、コツコツと歴史を積み重ねてきた。現在では仲間と通販も行い、消費者に直接、わさびの魅力を伝えている。
国指定重要無形民俗文化財「有東木の盆踊」や市指定無形民俗文化財「有東木の神楽」なども有する有東木。観光客の訪れる「うつろぎ」(有東木特産品販売施設)も、近年ますます人気を集める。
望月佑真
有東木のわさび農家、丸一農園の11代目。21〜25歳まで山梨県に本社がある種苗会社に勤め、日本中のわさびの産地を歩く。その後、後を継ぐため、丸一農園へ。真摯にわさび栽培に励み、これまでに農林水産大臣賞を2回受賞。「継いだ時からこの賞を取りたいと思っていたので、本当に嬉しかった」と笑顔で話す。わさびの高品質な味わいは評判で、静岡県内のみならず、全国の名だたる和食店から引き合いがある。
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